11月11日『介護の日』にあらためて考えたい。家族が「介護を受け入れる」ということ

介護について理解と認識を深め、地域社会での支えあいや交流を促進するために厚生労働省が定めた『介護の日』。『介護の日』は利用者・家族・介護従事者を支援することを目的としています。大切な両親やパートナーが、病気・ケガ・加齢等によって介護を必要とするとき、家族はどのように受け入れたらよいか、『介護の日』にあらためて考えてみませんか?
株式会社ツクイで訪問介護・ケアプラン作成などの在宅介護サービスから、グループホームや有料老人ホームといった居住系サービスに至る幅広い経験をもつ森さんに話を聞きました。

介護が始まるきっかけ

例えば、これまで自分一人でできていたことが脳卒中により半身マヒ等の症状が出たことによって、ある日突然できなくなる。老化に伴い徐々に身体の動きに制限が生じることによって、転倒・骨折してしまい、日常生活に不自由が生じる。認知症の症状による生活上の困難を周囲の人が心配して介護サービスの利用を勧められた。介護が始まるきっかけは、さまざまです。しかし、実際に自ら望んで介護サービスを利用するという方は、ごくわずかではないでしょうか。
かつて「どうしてこんな風になっちゃったんだろうね…」「このつらさは年をとったら分かるよ…」など、ご本人の苦しい思いをお聞きしたことが何度もあります。
また初めて訪問したお客さまに、「自分のことは自分でできるので、サービスは必要ありません!」とかたくなに介護サービスの利用を拒否されたことがあります。その言動の裏には、これまで自分でできていたことができなくなることへの喪失感や不安、悲しみなど、様々な感情があるのだと思います。

ご家族の変化

ご家族の葛藤

ご家族もご本人と同様に、様々な葛藤を抱えることがあります。「あんなに元気いっぱいで、家族皆から頼られる存在だったお母さんが、お父さんがまさか…」など、それまでとの心身の状態変化をなかなか受け入れることができずに、ただただ憂い、困り果ててしまう、そんな方が少なくないと感じます。
関係性が近いご家族ほど、その思いは強い傾向で、親族での話し合いのときに、実の息子さんがポツリと「…どうしたらいいか、わからないんだよ・・・」と絞り出すように話されるのをお聞きしたことがあります。大切な家族だからこそ悩み苦しむ、そんな気持ちがひしひしと伝わってきました。ご家族は、ご本人の心身の状態変化を不安に感じるだけでなく、ご家族自身の生活スタイルも変えざるを得ない場合が多いため、その現実に直面して困惑することが多いのではないでしょうか。

現実を受け入れるということ

ご家族が現実を受け入れるに至るプロセスは十人十色ですが、一例として認知症の人を介護する家族が経験するのが、以下の「4つの心理ステップ」と言われています。ステップは必ずしもスムーズに進むわけではありません。次のステップになかなか進めなかったり、時には一つ前のステップに戻るなど個人差があります。

ステップ1 とまどい・否定

認知症の人の言動にとまどい、否定しようとする。悩みを他の人に打ち明けられず、一人で悩む時期。

ステップ2 混乱・怒り・拒絶

認知症を理解することができず、どう対応してよいか分からず混乱し、腹を立てたりする。精神的、身体的に疲弊し、認知症の人を拒絶したり、キツくあたったりする。本人、家族にとって一番つらい時期。

ステップ3 割り切り・諦め

怒ったりイライラしてもしょうがない、と思い始め、割り切れるようになり、諦めることができる時期。介護生活に慣れてきて、徐々にうまく対応できるようになる。

ステップ4 受容

認知症に対する理解が深まって、認知症の人をあるがままに受け容れることができる時期。本人や家族にとってベストな状態といえる。


杉山孝博 『認知症の理解と介護ー認知症の人の世界を理解しよい介護をするためにー』より引用

ご家族に大切にしてほしいポイント

介護に直面したとき、どうしてもできなくなってしまったことに注目しがちですが、「できること」に目を向け、「介護を必要とすること」=「何もできなくなったわけではない」ことを前提としてください。そして、ご本人がどんな生活を送りたいと思っているかをできればご本人と話し合い、一緒に考えてみてください。
ご本人が希望する生活を実現するために、ご家族の生活を見直したり、負担が増えることもあるかもしれません。そんな時、心に留めていただきたいのは、ご家族だけで解決しようとしないことです。同居の有無にかかわらず、介護に無理は禁物です。ご家族の生活にも大きく関わってきますから、ご本人・ご家族両方の負担をいかに軽くできるのか、の視点を大切にしてほしいと思います。まずは、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所などで率直にお困りごとを相談していただきたいと思います。例えば「最近イライラする」などのご家族の感情については、伝えにくいと感じる方もいるかもしれませんが、ケアマネジャーにご家族の思いやつらさを伝えることで、ケアマネジャーはご家族の負担軽減を考慮したプランを提案することもできます。介護が長期化することも踏まえ、介護保険サービスや地域住民ボランティアによる支援等のインフォーマルサービスを上手に利用し、ご家族自身の心身をいたわるように心がけてほしいです。ご家族が負担やストレスをかかえずに生活することが、ご本人の安心感にもつながるのだと思います。

介護サービスを提供する私たちは、一人ひとりのお客様が介護サービスを利用するに至った背景や心情、またご家族の思いや負担等に、十分に心を寄せて、ニーズに沿ったサービス提供を常に心がけていきたいと思います。

コラム監修

株式会社ツクイ 運営管理部
森 久美子
社会福祉士/精神保健福祉士/介護支援専門員/介護福祉士

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