「家族介護」に必要なこと
「歳をとれば老いるのは自然なこと。本人も周りも『老い』を自然のことと受け止めて助け合えたらいいですね。」そう話すのは株式会社ツクイ太白事業所でサービス提供責任者を務める塩澤さん。サービス提供責任者は、介護保険サービスのうち、お客様のご自宅に伺って介護を行う「訪問介護サービス」において、お客様一人ひとりに必要な訪問介護サービスを生活の希望に沿って計画・実施・管理する責任者で、塩澤さんはこれまで多くのご家族を支援してきました。
その経験から、家族介護が難しい原因を「介護を抱え込んでしまうこと」と「情報不足」と指摘します。ご本人もご家族も納得できる家族介護をするために必要なことは一体何なのでしょうか。ご自身も家族介護を経験した塩澤さんに聞きました。
なぜ家族介護で苦しいという声が多いのか。昔ながらの大家族の介護を見て気が付いたこと
以前大家族の方のケアに入っていたことがあります。そのご家庭は、高齢のお母さまを、兄弟姉妹で交替しながら介護をしていました。介護をする方がたくさんいて上手に連携が取られていました。人手が多いので一人ひとりの介護負担は少ないですし、集められる介護に関わる情報量も多く、介護をする側もされる側もみんながゆとりを持ち、まさに理想的な介護環境だなと感じていました。
一方で、少子化・核家族化が進行し、ご家族を取り巻く介護環境も変わってきました。社会問題にもなっていますが、両親の介護を一人で担っていたり、老々介護や育児とのダブルケアであったりと、個人の介護負担がより大きいケースが増えたと感じています。
核家族で祖父母と同居したこともなく高齢者と関わりが少ないと、老化現象や認知症などについての知識や経験も少なくなります。自分の両親が高齢になった時に初めて介護に直面するという方も、今後ますます増えるのではないでしょうか。
介護は一人ではできない
私自身介護はまだ先の事と思っていましたが、数年前、同居していた母に進行性の病気が見つかりました。自宅での闘病生活が始まり、当初は仕事をしながら母を介護しましたが、母の病気は思っていたより進行が早く病状も思わしくありませんでした。そのため数か月後に介護休業をとって自宅でターミナルケア(終末期のケア)をすることを決断しました。
これまで介護サービスを提供する立場で関わってきた訪問診療、訪問看護のスタッフには、今度は自分が介護する家族としてお世話になることになったのです。
介護用ベッド等の福祉用具や母に必要な酸素濃縮器などを設置して自宅での介護が始まりました。寝るときも食べるときも母に付き添った24時間介護でしたが、発熱や心配な症状が出たときは、訪問看護のスタッフが親身にサポートしてくれました。その時は余裕が全くありませんでしたが、今振り返ると多くの方々の支えがあったおかげで母を自宅で看取ることができたのだと思います。
たくさんの人が自分たちの状況を受け止めて支援してくれるということが、これほど大きな安心感に繋がるとは、仕事として介護をしていた時には気が付かないことでした。自分の経験を通じて、「介護は一人ではできない」ということを改めて実感させられました。やはり介護は、一人で背負うのではなく多くの人で支えあいながら行なうものなのだと思います。
家族で役割分担できる人が少ない場合、一人ひとりの介護の負担は大きくなります。それを補えるのが介護の専門職スタッフです。介護計画全体をつくるケアマネジャー、訪問介護、デイサービスなどの介護保険サービスを提供する指定事業者。こういった介護の専門職を大いに活用してください。
介護がいつ始まるのか予測するのは困難です。多くの場合はある日突然介護が始まります。急に「介護」という世界に足を踏み入れることになるのですから、自分一人でうまく対処できなくて当たり前です。しかし現実にはなんとかしようと一生懸命になってしまい、一人で抱え込んでしまうことが多いようです。
介護が始まったら優先してほしいことは、協力者を探すこと。そして情報収集を行い介護に関する知識を増やすことです。介護の専門スタッフはサービスを提供するだけでなく相談援助も業務の一つとしていますので、遠慮や気兼ねはいりません。日ごろの悩みや分からないこと、不安に思っていることを相談して、一人で抱え込まないようにしてほしいです。自分以外の人が悩みを真剣に聞いてくれる、ましてやその道のプロが味方にいるというのは心強いものです。協力者がいることでご家族に余裕が出てくると、ご家族の気持ちはだいぶ楽になるのではないでしょうか。
認知症や老化のメカニズムなど知識面でも、介護の専門スタッフが助けになれることは多くあります。認知症の諸症状は病気のため起こるものなので知識があれば対処できるケースも多いのですが、そのことを知らないために誤った対応をしてしまい、ご家族もご本人もさらに苦しくなるケースもあります。もしそんな負のスパイラルに陥っているのなら、そこから抜け出すにはシンプルに「聞く」という方法もあると思います。困っている症状があれば、まずは介護の専門スタッフに相談してください。その他にも、他人になかなか相談しづらい経済的なことも、役所などの公的機関に聞くと「こんな助成金がありますよ」などと教えてくれる場合もあります。また、介護家族同士が相談や情報交換できる家族の会も全国にありますので、同じ悩みをもつ仲間とネットワークをつくることもおすすめです。
年齢を重ねれば老いるのは当たり前のこと。私の母の介護は半年で終わってしまいましたが本音をいえばもっと長く介護を続けたかったです。自分の家族介護を振り返って思うのは、介護をする家族には「余裕」が必要だということ。ご家族が睡眠をしっかりとれていて、気持ちにも時間にも余裕がある。ご家族が無理をしないから、ご本人も無理しなくていい。ご家族もご本人もそう自然にいられるように、私たちも精一杯サポートしていきたいと思っています。
「ケアにはいるときは、未来の自分と思って支援させてもらっている」と塩澤さんは言います。介護はいずれ通る道。老いを自然なことと受け止めて、みんなが幸せでいられるようなゆとりある温かい介護を目指していきたいですね。
コラム監修
株式会社ツクイ
介護福祉士
塩澤 由美子







